木立の群れを通り過ぎた。
旅の中途。ひらけた景色を、高い丘から一望する。
月明かりの下、渓谷の切れ間に、かすかにぼやける光が見えた。
谷あいの山村。まばらな人家の灯火だった。
螢火のように淡く小さく、しかし、儚いということはない。
きっとそこには、和やかな家族の語らいがある。温かい火を囲んだ、安らぎが…。
その者の視界が、ふと、にじむ。
あのぬくもりを知っていた。
数年前まで、ああした光の環の中にいた。
家族の情に包まれて、毎日を伸びやかに暮らしていた。
遥かとも思える昔の安らぎ。
幸福そのものの日々。
今は、もうない。
ぐいと瞳を引き剥がした。厳しく踵を後ろに返した。
進んで闇に潜っていく。
探し出すべき者がいる。どんな艱苦の道であろうと、師匠の恩に報いるために。
心に深く思いを刻み、またその者は歩き出す。
闇夜を照らす幽明の道標、ただ月のみを、頼りにし。