09 「遠い家灯り 」






 木立の群れを通り過ぎた。
 旅の中途。ひらけた景色を、高い丘から一望する。
 月明かりの下、渓谷の切れ間に、かすかにぼやける光が見えた。
 谷あいの山村。まばらな人家の灯火だった。
 螢火のように淡く小さく、しかし、儚いということはない。
 きっとそこには、和やかな家族の語らいがある。温かい火を囲んだ、安らぎが…。
 その者の視界が、ふと、にじむ。
 あのぬくもりを知っていた。
 数年前まで、ああした光の環の中にいた。
 家族の情に包まれて、毎日を伸びやかに暮らしていた。
 遥かとも思える昔の安らぎ。
 幸福そのものの日々。
 今は、もうない。
 ぐいと瞳を引き剥がした。厳しく踵を後ろに返した。
 進んで闇に潜っていく。
 探し出すべき者がいる。どんな艱苦の道であろうと、師匠の恩に報いるために。
 心に深く思いを刻み、またその者は歩き出す。
 闇夜を照らす幽明の道標、ただ月のみを、頼りにし。







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