11 「退屈な楽園 」






 ひらひらと胡蝶が舞っている。
 陽光のどかに、風も洋々。
 畳に背をつけていた守矢は、ゆるやかに午睡の目を開けた。
 一の字に開いた両腕が重い。
 義妹と義弟に貸している。
 幼い弟妹は屈託もなく、義兄の腕を枕にしたまま、深く眠りこけている。
 動くことはできない。
 守矢は苦笑し、なすすべもなく青空を見た。天地さかさになった瞳には、庇が天に、空が地と見えた。
 青い大地を、白雲が優雅に漂っている。鳥の鳴き交わす声が和やかだった。
 森を抜ける風の音、応える葉ずれに、左右の弟妹の寝息が重なる。
 かけがえのないぬくもり。
 この子たちと兄弟と呼び合うようになってから、どれほどの時が経つのか。
 ばらばらに芽吹き、ひとつの大樹に継がれた子葉。故郷の歌も知らないそれぞれ。
 大樹は幼芽を護り育てた。その大らかな枝に抱かれるうちは、時も優しく、平易に流れた。
 ただ自分たちは、訪れる日ながを享受して、懸命に生長へ励めばいい。
 義弟がころろと寝返りを打つ。義妹も無心に目をこする。
 春風やさしい、うららかな日。
 限りない緑陰に安らいで、今一度守矢は、瞳を閉じた。







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