青い瞳が少年の姿を見つめていた。
金色の髪を紫色の頭巾に包んだ、幼い少女。
縁側にちょこんと腰掛けて、庭で竹刀を振る少年を見つめている。
少女よりやや年上の、凛然とした少年は、はじめこそ少女を気にしていたが、集中するに従って、やがて姿も見えなくなったようだった。
ひょっとすると、忘れたのかもしれない。
一振り、二振り。重ねるほどに軌跡が研ぎ澄まされていく。
澄み渡った瞳の光。空蝉色の瞳はひたと前のみを向いている。
烈風が起こり、少女の頭巾がはためいた。少女は瞬きをする。
少年は、師より学んだ剣の型を一通りなぞった後、静かに竹刀を納めた。
「もりや」
少女は呼びかける。少年は振り向いた。
「もりやは、かぜをだせるの」
少年は首を傾げた。この小さな少女…妹が、何を言っているのか分からないようだった。
少女は言葉を続ける。
「だってもりやからかぜがくる」
少年は無言だった。それでも、妹のひたむきな瞳に頷いて見せた。
「すごい」
少女は言った。
「もりや、つよい」
そう言って、笑った。花のように。
その笑顔に目を奪われたように見えたのも一瞬で、少年はふいっとよそを向いてしまった。何事も無かったように竹刀を構え、もう一度型を繰り返し始める。
そっけないとも思わずに、にこにこと少女は少年を見つめる。
もっと見ていたかった。ずっと、少年の姿を。
できれば、いつだってこんなふうに。彼の近くで。
少女の周りを、絶え間なく風は巡り続ける。