浪漫人に30のお題−14「風を紡ぐ」


14 「風を紡ぐ」






 青い瞳が少年の姿を見つめていた。
 金色の髪を紫色の頭巾に包んだ、幼い少女。
 縁側にちょこんと腰掛けて、庭で竹刀を振る少年を見つめている。
 少女よりやや年上の、凛然とした少年は、はじめこそ少女を気にしていたが、集中するに従って、やがて姿も見えなくなったようだった。
 ひょっとすると、忘れたのかもしれない。
 一振り、二振り。重ねるほどに軌跡が研ぎ澄まされていく。
 澄み渡った瞳の光。空蝉色の瞳はひたと前のみを向いている。
 烈風が起こり、少女の頭巾がはためいた。少女は瞬きをする。
 少年は、師より学んだ剣の型を一通りなぞった後、静かに竹刀を納めた。
「もりや」
 少女は呼びかける。少年は振り向いた。
「もりやは、かぜをだせるの」
 少年は首を傾げた。この小さな少女…妹が、何を言っているのか分からないようだった。
 少女は言葉を続ける。
「だってもりやからかぜがくる」
 少年は無言だった。それでも、妹のひたむきな瞳に頷いて見せた。
「すごい」
 少女は言った。
「もりや、つよい」
 そう言って、笑った。花のように。
 その笑顔に目を奪われたように見えたのも一瞬で、少年はふいっとよそを向いてしまった。何事も無かったように竹刀を構え、もう一度型を繰り返し始める。
 そっけないとも思わずに、にこにこと少女は少年を見つめる。
 もっと見ていたかった。ずっと、少年の姿を。
 できれば、いつだってこんなふうに。彼の近くで。
 少女の周りを、絶え間なく風は巡り続ける。







---

 HOMEへ