一列に並んだ雁の群れが、高く空を渡っていく。
「あ、鳥だよ」
通りかかった、一人の子どもが声を上げた。髪も瞳も、墨のように真っ黒い。
「雁だ」
一言、子どもの後ろにいた少年が糺すように言う。赤がかった髪をしており、瞳も、蝉殻のように淡かった。
「雁?」
少年のかたわらにいた少女が繰り返す。紫色の瀟洒な頭巾を被っていて、その奥で、冬空の色をした瞳が光っていた。
決して互いに血縁はないが、彼らは兄弟なのだった。同じ屋敷に引き取られた、三人の幼い孤児たちだった。
今は、彼らの育て親とともに長旅をしている。そして養父は他用のために、子らのそばを離れていた。長兄の少年は年齢のわりにしっかりとしているので、養父も安心して弟妹たちを任せていた。
「どうしてあんなに綺麗に並んでるんだろ?別々に飛ばないのかな?」
弟が言う。
「だって、あの子たち家族だもの」
当たり前のように姉が言う。
「家族?」
「はぐれないように群れになって旅をするのよ。毎年冬に、北国からやってくるわ」
胸を張って誇らしげに言うが、それは本当は、彼女の隣の兄に教えてもらったことだった。
「どうして?寒い時なんかに」
「北はもっと寒いのよ。こっちのほうで冬を越えて、春になったらふるさとの、生まれた国に帰るのよ」
「生まれた国…?」
弟は繰り返す。生まれてまもなく実の両親をなくした弟は、ぴんとこないようだった。
「…」
兄と姉は黙った。普通の家の子なら当然のように存在するものへ、黙って思いを巡らせている姿は不憫に見えた。少なからず昔の記憶を持っている兄姉の目には、尚更に。
「おうちに帰りたい?」
唐突に姉はそう聞いた。自分たちの生まれた国は自分たちが暮らしていた家であると、教えるように。
「ううん」
弟はすぐに答えた。
「あら、そうなの?」
「うん。だって、お師さんとお兄ちゃんとお姉ちゃんがいれば、僕はどこだっていいもの」
心のままにそう答える。弟の目は澄んでいる。
姉の青い瞳が見開かれる。兄を見上げた。普段から寡黙でいる兄はこの時も表情を崩さないように見えたが、
「…そうか」
静かに、頷く。
「うん。そうだよ」
弟が言う。姉は微笑んだ。
秋、空高く、はらからの鳥たちが渡っていく。
「彼らが無事であるように」
兄が言った。弟妹は頷く。
心の中、同時に、自分たちに祈っている。
いつまでも無事に、いつまでも離れないように。
皆と共に、歩けますように。