微笑む。
その子が。
それだけで、京は瞳を奪われる。
何でもないことを話しているだけ。
どうだっていい、他愛のないことを。
それでも、ユキは笑う。
いかにも楽しそうに、その美しい目を柔らかに細めて。
「本当に?」
鈴のように綺麗な声。凛としながらどこか甘い。
そのたび鼓動が早まることに京は焦る。焦りながらも、もう一度、と、期待する。
「ああ。笑っちまうだろ?」
できる限りの平静を装い、そう言う。
「うん」
また、笑う。まるで日だまりのような暖かさで。
見とれずにはいられない。あまり見るのも行儀が悪いなど、そんなことも吹き飛んでいる。
人より大きいユキの瞳は、光にかざした飴玉のよう。きらきらと澄んでどこまでも明るい。
思わず京は目元を和らげる。
高校の外、日本の外。広い世界も知っているが、こんな人には出会ったことがなかった。
学年を一度留年しているうえに、その他おかしな噂も絶えないだろう自分を、奇異と見ている様子もなく、至って普通に接してくる。
真っ向から自分と向き合って、ほがらかに声をかけてくる。一つ二つ言葉を返すと、明朗な調子で答えてくれる。
おだやかな慈雨を受けるよう。気持ちが優しくなっていく。
近くにいたい、この子のそばに立っていたいと、ごく自然にそう思う。
だから京も。
「な。でも、ほんとなんだぜ」
笑った。とびきりの笑顔、その微笑みを、そのままユキに返すかのように。
それは誰にも見せたことのない、京の中から生まれた笑顔。
一つ、大切なものを見つけた、心からの喜びのもの。
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