それは、夏。
とある病院近くの野原にて。
草薙の神拳が、創始以来初めての再生を見た──。
火柱が立ち昇る。
紅丸、大門、そしてユキは、巻き起こる熱風に思わず我が身を庇った。
京の姿が見えない。
命を得たように燃え盛る炎、あの中心にいるはずの京。
つい昨日のこと、京は何者かと野試合を行い、全身にかつてないほどの重傷を負った。
それを京の母から聞かされたユキは、どれほど仰天したか分からない。
テスト休みの最初の一日、京と映画でも観に行こうと、京の自宅に電話をかけた時のことだった。一体何者を相手にしたのかも分からない。しかし京は、負けてしまった、と…。
そして紅丸も、ユキと時を開けずしてそのことを知った。噂通り正式に開催されることとなった、KOFへの参加申込が済んだことを京に電話で伝えようとして、ユキと同じように京の入院を知ったのだ。
ユキはすぐに病院へ向かった。紅丸もその手でもう一人のチームメンバーの大門五郎に連絡を入れ、彼と合流し、京が収容された病院へ向かった。
紅丸と大門は京の病室へ向かおうとしていた、病院の入口で、血相を変えて病院から出てきたユキと鉢合わせた。
ユキちゃん久しぶりだね、京のところに行ってたの、あいつは今どんな具合なんだい、と、こんな時でもユキに優しく問いかけた紅丸に、ユキは顔を真っ青にしてこう告げた。
京がどこにもいないんです、と。
動ける体じゃないのに。病室、病棟、どこを捜しても──。
すぐにユキと共に京を捜しに外へ出た紅丸たちだったが、病院とほど近い野原に京の姿を認めた瞬間に、彼の全身から天焦がす炎が巻き起こるのを見たのだった──。
光、熱、朱色。
ユキは瞼を覆った。
紅丸、そして大門が、体を起こして火の気から自分を庇ってくれているのが分かった。
それでもユキはどうすることもできない。動けない。
眼を閉じていても炎の吐息は二人の男をすりぬけて、ユキの頬や髪を撫でていく。
ユキは何が起こっているのか分からない。ただ、瞼の裏に京の顔が浮かんだ。いつか京が見せてくれた、小さな火。それから病室で見た、包帯だらけの痛々しい姿。
京はそこにいるのだろうか?これは京がしていることか?一体何を、傷ついた体で、何をしているのだろう…!
「京…!」
ほとばしるようにユキは叫んだ。聞こえて欲しいと心から願った。
紅蓮の炎は咆哮を上げ草原に荒れ狂い、やがて、鎮まった。
炎の熱気が緩やかに夏の空気と混じり出した頃、ユキは怖々、目を開いた。
息を呑む。
一面の焼け野原。
先刻までの夏の野原が、一瞬の内に白煙のくすぶる黒土ばかりになってしまっている。
視界を遮るものの何も無い、荒れ野の中央に、京は両足で立っていた。
草を、薙ぐ。
その名の由縁を見せつけられて、ユキはその場に座り込んだ。
逆に、紅丸は弾かれたように京の元へと駆けていく。
紅丸が京に何か言っている。
一体何が起こったのか、おそらくは疑問を。
答える京の顔は自信の色に満ちていた。
草薙の神拳。
伝説に語られるばかりで、その再現すら歴代の誰にもなしえなかった幻の奥義。
その奥義を自分は今、己のものとすることが出来た。
戦友を前にした京の顔は、草薙流正統伝承者としての誇りに輝いている。
そんな京を、ユキは呆然として眺めているしかできなかった。
現実離れの出来事に圧倒されたせいもあるが、京のそんなふうに高揚した表情を、今までユキは見たことが無かったのだ。
そう、ただの一度も。
ふと、京と目が合った。
京は初めて、ユキがそこにいることに気付いたようだった。
「京…」
安堵し、ユキは呟いた。やっと自分に気付いてくれた。
京は口を開いた。
「なんだユキ、いたのか?」
何でもないことのように京は言った。
ユキの視界が曇って滲んだ。
遠かったのだ。
京の瞳が。
焼かれた草が風に晒され、乾いた声で、鳴いた。
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