太陽が沈む。
燃えるように輝く夕陽が、一日が終わるあらゆる光を引き連れて、西の果てへと還っていく。
朱色、緋色、赤色。めくるめく絢爛の光の波をずっと肩に受けながら、しかしユキは、一度もそれらに目を向けなかった。
たった一人で、京が払った野原にしゃがみこんでいる。
膝を抱き、深く頭を垂れたまま。黄昏があたりに満ちてきても、顔を上げない。
泣いている。
「…」
零れる涙を拭いもせずに、ユキは肩を震わせていた。
京の前では堪えていたが、京の病室を出てからもう一度野原を訪れ眺めているうちに、たまらなくなったのだった。
『お前には関係ない』
京にぶつけられた先ほどの言葉が、ユキの耳にこだましている。
ひどい、と思う。
京は少しも分かっていない。入院したと聞いて一体どれだけ心配したか分からないのに。
涙の中でユキは思う。
京が見ているのは格闘の世界。
それはユキは、前から何となく感じていたことだった。
少し前、あの紅丸という青年がやってきた時の…京の顔を見た時から。あの時、京と紅丸が何を話していたのかユキは知らないが、あの日から京は、どこか遠くを見るような目をするようになったような気がする。ユキの知らない何かを、ずっと見つめているような…。
そして、あのすさまじい炎の技。その後の京の高揚しきった顔。あんな顔をした京は一度も見たことがなかった。
しかし、あれが京の本当の顔なのだろう。生まれた家の武術を背負う、格闘家としての。
ユキの知らない京の側面。元から京が持っていた一面。
『負けたくらい何なのか』
そうユキが言った時、京はまるで牙を剥いたかのように苛烈な態度を見せた。京は自分が生まれた家を、その拳を、限りなく誇りに思っているのだ。だからユキの言葉に対し、あんなにも激しく怒った。ユキは、京が最も嫌がる時に、最も嫌がる形で、その逆鱗に触れてしまったのだ。
思い知らされる。
京は格闘の世界に生きている。
自分と共にある、平凡な日常の世界の中には、生きてはいない。
涙が頬を伝い落ち、黒い大地に染みていく。
それが現実。
容赦が、無い…。
一人ユキは、尽きない涙を零し続ける。
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