七色の綾。時が過ぎればあとかたも無くなる光の絵画。 
 夏の空色に溶けていく。 
 京もユキも見つめ続けた。その輝きが、霞となって消えゆくまで。 
 すぐ近くに、肩を寄せて。 
「綺麗」 
「ああ」 
 京はユキの手を握る手に力をこめた。 
「お前と見られて、よかった」 
 ユキは空から目を離す。 
 京の瞳はユキを見ていた。 
 かすかに微笑む、その穏やかなまなざしに、淡くユキは頬を染める。 
「…うん」 
 目を伏せ、小さく頷いた。 
 そのまま睫毛を、そっと重ねた。 
「…」 
 京は沈黙した。 
 ユキの瞳は変らず閉じられている。 
 唇はゆるく結ばれ、夢見るように空を、京を仰いでいる。 
 その花のような白い顔を視界の正面に据えたまま、京は囚われたように動かない。 
 ユキも、動かない。 
 雨を吸い込んだ、むっとするような地面の匂い。 
 雫が地面にぱらぱら落ちる。 
 通りの花壇の花が揺れた。 
 ユキの睫毛がわななき始める。蝉の声は埋め尽くすよう。鼓動は京を震えさせた。 
 小さな炎が、ユキに灯った。 
 ぎこちなく、唇に。熱く。 
 白桃の頬に紅が差す。ユキの背に京は手を回した。京の胸にユキはすがりつく。 
 とても、とても長い時に思えた。 
 足元をふらつかせたユキの体を、両腕を広げ京はしっかりと抱きとめた。
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